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鉄過剰による動物発がんモデルではヒトのがんによく似た染色体変化を起こす 研究活動 | 研究/産学官連携

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平成 24 年8月 30 日

鉄過剰による動物発がんモデルでは

ヒトのがんによく似た染色体変化を起こす

この度、名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英) 生体反応病理学

赤塚慎也(あかつか しんや)助教、同 豊國伸哉(とよくに しんや)教授らの研究

グループは、鉄を介した酸化ストレスによる動物発がんモデルにおいて、ヒトのがん

と同様の染色体変化が再現されることを見出しました。 鉄を介した酸化ストレスが

人間の一般的ながんの普遍的な原因因子となっている可能性を支持する有力なデー

タです。

なお、本研究成果は、2012 年 8 月 29 日(アメリカ東部時間)、米国科学雑誌

『PLoS ONE(プロスワン)』電子版に掲載されました。

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鉄過剰による動物発がんモデルではヒトのがんによく似た

染色体変化を起こす

要旨

この度、名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英)生体反応病理学 赤塚慎也

(あかつか しんや)助教、同 豊國伸哉(とよくに しんや)教授らの研究グループは、鉄を 介した酸化ストレスによる動物発がんモデルにおいて、ヒトのがんと同様の染色体変化が再 現されることを見出した。鉄を介した酸化ストレスが人間の一般的ながんの普遍的な原因因 子となっている可能性を支持する有力なデータである。なお、本研究成果は、2012829 日、米国科学雑誌『PLoS ONE(プロスワン)』電子版に掲載された。

1.背景

同グループは、今より30年前に、鉄ニトリロ三酢酸と呼ばれる鉄化合物をラットもしくは マウスの腹腔内に反復投与することで、高頻度に腎細胞がんが誘発されることを見出した。 その鉄化合物は鉄キレート錯体の構造をとっており、ヒドロキシルラジカルと呼ばれる毒性 の高い活性酸素を生じる化学反応を促進する性質がある。その活性酸素生成反応は、ほ乳動 物の体内では、腎臓の尿細管内で最も強く誘発される。同グループは、この腎発がんモデル を酸化ストレス誘発発がんモデルとして位置づけ、その発生機構の解明に長年取り組んでき た。

ヒトの一般的ながんの多くのものでは、がん細胞の核内ゲノムにおいて、染色体の脱落・ 増幅・転座および染色体数の異常が認められる。染色体に関するこの異常は、染色体不安定 性とよばれ、ヒトのがん細胞の一般的な形質と考えられている。染色体不安定性が発がんの 機構に直接的にどう関わっているのかは、未だよく解明されていない問題であるが、それを 研究するのに適した動物発がんモデルは今のところ見つかっていない。今回、同グループは、 染色体不安定性の結果と考えられるゲノム変化が、上記の鉄化合物誘発ラット腎がんにおい て生じていることを見出した。

ポイント

○鉄は生体内で過剰になると、活性酸素を生じる化学反応を引き起こして、細胞に酸化 ストレス傷害を与える。

○ラットへ鉄ニトリロ三酢酸と呼ばれる鉄化合物を投与すると、腎臓において活性酸素 を発生する化学反応がおこり、投与を繰り返すと腎臓にがんができる。

○鉄化合物誘発ラット腎がんのゲノムは、大規模な染色体変化を含んでおり、人間の一 般的ながんと共通する特徴を有していることがわかった。

○過剰鉄による酸化ストレスはヒトがんの普遍的な原因である可能性が示唆された。

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2.研究の内容

今回の研究では、鉄化合物誘発ラット腎がんにおける染色体コピー数変化をゲノム網羅的 に解析するため、アレイCGH (comparative genomic hybridization【用語の説明】参照) を施行した。13の原発腫瘍組織と2つの細胞株を解析した結果、ゲノム中に広範かつ多数の コピー数変化を含むものの割合が高かった(図1)。当モデルと比較する対象として、Eker系 統ラットの腎がん(遺伝性腎がん)についてもアレイCGH解析を行った。Eker系統ラットの 腎がんは生殖系列細胞の(世代間に伝わる)遺伝子変異によって生じるが、その腎がんゲノ ムでは、染色体レベルのコピー数変化は3例中1例しか見られず、その1例においても少数 の染色体でしか広範なコピー数変化は起きていなかった。実際、これまで全世界でアレイCGH を用いて解析された動物腫瘍のゲノムに関しては、遺伝子改変動物の場合を除いては、顕著 な染色体変化は高頻度には見られていない。ヒトの一般的ながんの多くが染色体不安定性の 特徴を有することを考えると、今回得られた結果は、ヒトの発がんにおいても、鉄を介した 酸化ストレスが主な要因となっている可能性を示唆している。すなわち、本発がんモデルは 他の化学発がんモデルと比べて人間の一般的な発がん過程との共通性が高く、発がん研究の ための動物モデルとして有用であると考えられる。

さらに、本モデルに共通的に見られる染色体変化の特徴を検討した。図 2 は、鉄化合物誘 発ラット腎がんにおいて検出されたコピー数異常の13の原発腫瘍組織と2つの細胞株にわた ってみられた頻度を、ゲノムの部位に沿ってプロットしたものである。この頻度解析により、 本モデルに見られる染色体変化の 2 つの大きな特徴が明らかとなった。第一の特徴は、整数 倍体の状態からコピー数が減少している染色体部位のほうが、増加している部位よりも多い というものである。この特徴は、ヒトの明細胞腎がん(【用語の説明】参照)のアレイCGH解 析において、コピー数変化がより高度に蓄積されている標本群では、コピー数増加の部位よ りもコピー数減少の部位のほうが平均的に多くなっていたという事実とも一致する。また、

1) アレイCGH解析結果の代表例(2つの原発腎腫瘍のゲノムを解析した結果). ゲノムの各部位での染色体コピー数の相対倍率(対数値)を折れ線グラフとして表した.

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コピー数減少の様式としては、特定の染色体(ラット5/ 6/ 8/ 9/ 14/ 15/ 17/ 20番染色体) において、染色体1本全体あるいは染色体の半分以上の長い領域が失われるという変化が頻 発するというものであった。その中でも、5 番染色体は特に減少が起こりやすい染色体の 1 つであり、Cdkn2a遺伝子座はこの染色体上にある。2つのがん抑制遺伝子を含むCdkn2a遺伝 子座の欠失は、このような染色体単位での変化の傾向を背景として発生することがわかった。

第二の特徴的な変化は、ラット 4 番染色体に特異的な染色体増幅である。同染色体セント ロメア側の長い範囲(50Mb以上)にわたってコピー数の増幅が高頻度見られ、頻度分布のピ ークは既知のがん遺伝子である Metの座位に一致していた。この増幅領域を含むラット4番 染色体のセントロメア側80Mbは、人間の7番染色体と相同関係にある。人間の7番染色体は、 膠芽腫や非小細胞肺がんなどの種々の腫瘍において高頻度に増幅が認められる。本モデルに おいては、原発腎腫瘍の大きさが Met の発現量と相関しており、Met が腫瘍の成長速度を高 める因子として働いていることが示唆された。さらに、全ゲノムの染色体変化パターンによ り腫瘍サンプルの階層的クラスター分析(【用語の説明】参照)を行うと、サイズの際立って 大きい腫瘍の一群は、他とは独立した 1 つのクラスター(分類群)を形成した。すなわち、 腫瘍の表現形質をゲノム変化の全体的な型と対応付けることができた。

以上の結果は、鉄過剰を介した慢性的酸化ストレスは、発がん刺激として作用すると、大 きな染色体部位にわたる欠失や増幅を惹起しうるということを、動物個体レベルで初めて示 したものであり、極めて意義深いと考えられる。

2) ゲノムの各部位でのコピー数異常の発生頻度.上側の縦棒は増加(薄い赤の縦棒分)または増幅(濃い赤の 縦棒分)と判定されたサンプルの割合を,下側の緑色の縦棒は減少(薄い緑の縦棒分)またはホモ欠失(濃い緑の縦 棒分)と判定されたサンプルの割合をそれぞれ示す.コピー数異常の頻度が高い部位に一致する2つのがん関連遺 伝子座(MetおよびCdkn2a)の位置をグラフ中に表示した.

(5)

3.今後の展開

ヒトのがんに見られる染色体変化が、どのような過程を追って生じるかは詳しくはわかっ ていない。それは、発がんという事象を決定付ける重要な過程である。本動物モデルを用い れば、その過程を始点から終点まで順次観察することが可能となるかもしれず、発がん原理 の解明への貢献が期待される。

また、鉄はヒトにおいて最も多く含まれる重金属であり、その60%は赤血球の中のヘモグ ロビンにある。地球上には鉄なしで生存できる独立生命体はいないとされる。近年、ヒトに おいても、ウイルス性肝炎、アスベストによる中皮腫、卵巣の子宮内膜症に伴う卵巣癌など で、過剰鉄が発がんの主要な原因になっていることがわかってきた。さらに、米国からは、 鉄を体内から減少させる唯一の方法である瀉血を年2回行い5年間観察すると、発がん率が 有意に下がったという報告もある。ヒトの長寿化にあわせて鉄の制御をすることが、がんの 発生を予防したり、遅らせたりする効果があることが期待されるため、この方面の研究を推 進する予定である。

【用語の説明】

アレイ CGH: ゲノム DNA の増幅や欠損といったコピー数異常を、全ゲノムにわたって検出 する方法。異なる蛍光分子で標識した腫瘍組織由来と正常組織由来のゲノム DNA を、マイク ロアレイ上で競合的にハイブリダイゼーションさせる。そのシグナル強度を比較解析するこ とで、腫瘍細胞におけるゲノムDNAのコピー数変化を詳細に解析することができる。

明細胞腎がん:ヒトの腎臓がんのなかで、最も一般的なタイプ。顕微鏡でがん細胞をみると、 白く抜けて明るく見えることからこの名前がついている。

階層的クラスター分析: 数値の組み合わせでその特徴が示される標本があるとき、標本間 の類似度を数学的に定義し、その類似度に基づいた標本同士の階層的グループ関係を見出す ための統計的分類手法。

【論文名】

Fenton Reaction Induced Cancer in Wild Type Rats Recapitulates Genomic Alterations Observed in Human Cancer

※米国科学雑誌『PLoS ONE(プロスワン)』829日号電子版に掲載

201282917時(アメリカ東部時間)掲載)

参照

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